『深夜のコインランドリー』と『たたんだまま』制作背景|白いシャツがつなぐ二人の物語【Tucci Rainの世界・第3章】

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『深夜のコンランドリー』と『たたんだまま』のコンセプトイメージ:同じ夜、違う場所で。

Tucci Rainの19作目『深夜のコインランドリー』と、20作目『たたんだまま』。

午前2時。
男性は誰もいないコインランドリーで、乾かない白いシャツを見つめています。
スマートフォンの画面に残っているのは、彼女から送られてきた短い言葉。

「少し離れよう」

そして女性の部屋にも、一枚の白いシャツがあります。
彼に返すために紙袋へ入れたそのシャツを、彼女は何度も畳み直します。

この2曲は、Tucci Rainにとって初めて、ひとつの出来事を男性と女性、二人の視点から描いた作品です。ここでは、この2曲が生まれた背景と、白いシャツを通してつながる二人の物語について書いてみたいと思います。

Table of Contents

続編的な物語から、二人の視点が交差する物語へ

Tucci Rainでは、今回が初めて複数の楽曲をつなげて物語を描いたわけではありません。

最初の試みは、1作目『あの日の沈黙』と2作目『薄明のホーム』でした。
この2曲では、男性の物語を続編的につなげています。
ただし、楽曲ごとの世界を表現するため、画像に登場する男性は別の人物として描いています。

また、5作目『カーテンの隙間から』と6作目『灯りを消した夜』では、同じ一人の女性を主人公のモデルとして、続編的な物語を描きました。
一曲で物語を完結させるだけではなく、その後の時間や、続いていく感情を次の曲で描く。

Tucci Rainの楽曲には、これまでにもそうした「続きの物語」を描く試みがありました。

しかし、『深夜のコインランドリー』と『たたんだまま』では、これまでとは少し違うことをしています。
今回描いたのは、同じひとつの出来事を、二人がそれぞれどう過ごしていたのかという物語です。

一人の男性の続きを描く。
あるいは、一人の女性の続きを描く。
そうではなく、今回は一人の視点から始まった物語の裏側に、もう一人の物語が存在しています。

19作目『深夜のコインランドリー』を聴いているとき、聴き手には男性の孤独しか見えません。
スマートフォンに残された「少し離れよう」という言葉。
返せなかった「わかった」の四文字。
乾燥機の音だけが響く、午前2時のコインランドリー。

しかし、20作目『たたんだまま』を聴くと、そのとき「少し離れよう」と言った女性もまた、別の場所で同じ夜を過ごしていたことが見えてきます。
彼女は本当に迷っていなかったのか。
本当に「大丈夫」だったのか。
そして、本当に白いシャツを返す準備ができていたのか。

一曲目だけでは見えなかった物語が、二曲目によって少しずつ現れてきます。
今回の2曲は、そんな意味でTucci Rainにとって初めての、一つの物語を男女それぞれの視点から描く試みになりました。

『深夜のコインランドリー』──午前2時のコインランドリーに描いた、受け止めきれない男性の夜

『深夜のコインランドリー』の物語は、午前2時から始まります。

午前2時の コインランドリー
乾かないままの 白いシャツ
スマホの画面に残った文字
「少し離れよう」それだけだった

彼のスマートフォンに残っているのは、長い説明でも、別れの理由でもありません。

「少し離れよう」

それだけです。
だからこそ、彼はその言葉をどう受け止めればいいのか分かりません。

終わりなのか。
少し時間を置くだけなのか。
まだ何か言えたのではないか。

歌詞の中には、そんな後悔が静かに残っています。

まだ何か 言えた気がした
乾燥機の音に紛れて
息を吸う それだけだった

何か言いたかった。
けれど、もうその言葉を届ける相手はいません。

そして、彼が最後まで返せなかった言葉が出てきます。

返せなかった 「わかった」の四文字

「わかった」と言えば、それを受け入れたことになる。
けれど、その四文字すら返すことができない。

彼はまだ、「少し離れよう」という現実を受け止めきれていません。

だから「もう大丈夫だ」と何度も自分に言い聞かせます。

もう大丈夫と 何度も言えば
言葉のほうが 先に乾いていく

ここには、言葉と本当の感情のズレがあります。
何度も「大丈夫」と口にする。
けれど、口にした言葉だけが先に乾いていき、気持ちはまだそこに追いついていない。
「大丈夫」という言葉は、だんだん意味を失っていく。
それでも彼は、何度も言うしかありません。

そして最後に、白いシャツは乾きます。
彼はそのシャツをたたみます。

もう大丈夫にはまだ遠くて
乾いたシャツを たたむ手だけが動く

気持ちはまだ動けない。
けれど、手だけが動く。
シャツをたたむという、ごく普通の動作だけが進んでいく。

そして最後に残るのは、未来への答えではありません。

乾いた白いシャツを たたみながら
明日はきっと まだわからない

彼は何かを乗り越えたわけではありません。
恋の終わりを受け入れたわけでもありません。
ただ、その夜を終えようとしているだけです。

『深夜のコインランドリー』は、別れの瞬間を大きな感情で叫ぶ曲ではありません。
まだ何も整理できていない人が、深夜の静かな場所で、ただ時間が過ぎていくのを見つめている。

そんな、恋の終わりをまだ受け止めきれない男性の一夜を描いた曲です。

『たたんだまま』──「少し離れよう」と言った女性も、手放せてはいなかった

20作目『たたんだまま』は、『深夜のコインランドリー』のもう一つの視点です。

「少し離れよう」と言ったのは、彼女自身でした。

男性の物語だけを聴けば、彼女は関係から距離を置こうと決めた人物として登場します。
しかし、『たたんだまま』を聴くと、その言葉を口にした彼女もまた、決して簡単に前へ進めているわけではないことが分かります。

彼女のそばには、一枚の白いシャツがあります。

紙袋から出した 白いシャツを
もう一度そっと 畳み直す
「返さなきゃ」と思うのに 手が止まる

彼に返すためのシャツ。
その目的ははっきりしています。

返せばいい。
紙袋を持って行けばいい。

けれど、彼女の手は止まります。
そして彼女もまた、午前2時を過ぎても眠れません。

時計の針が 2時を過ぎても
電気を一つ 消して過ごす
迷ってなんかいない はずなのに

ここで重要なのは、「迷っている」とは言わないことです。
彼女は自分に対して、「迷ってなんかいない」と思おうとしています。
つまり、迷いを認めないことで、自分の決断を守ろうとしているようにも見えます。

そして、この曲でも「大丈夫」という言葉が繰り返されます。

「大丈夫」って言った声が 少しかすれた
隠していたものが 不意に見えた

男性が「もう大丈夫」と自分に言い聞かせていたように、女性もまた「大丈夫」と言います。
けれど、その声は少しかすれています。
自分で口にした言葉によって、逆に隠していた感情が見えてしまう。

ここに、『深夜のコインランドリー』との静かなつながりがあります。
二人とも「大丈夫」と言っている。
しかし、二人とも本当の意味では、まだ大丈夫ではありません。

彼女は何度も白いシャツを畳み、そして解きます。

指先に残る 布の柔らかさ
何度も畳んで 何度も解いて
言葉にできなかった 想いだけが
まだここに 息をしている

シャツを返せば、何かが終わる。
だからこそ、きれいにたたむことと、また開いてしまうことを繰り返してしまう。
最後まで、彼女の指先は本当の気持ちを隠すことができません。

「大丈夫」って言葉が 喉の奥で止まって
指先だけが 本当を知ってた

そして曲の最後に残るのは、

たたんだまま
たたんだまま
まだ 少しだけ

という言葉です。
彼女は完全に手放したわけではありません。

「まだ少しだけ」

その短い言葉に、彼女が抱えている迷い、未練、そして言葉にできなかった思いが残っています。

『たたんだまま』は、別れを決めた女性の物語ではあります。
しかしそれは、すべてを断ち切って前へ進む女性の物語ではありません。

自分で決めたからこそ、その決断を守ろうとしながらも、まだ手放せないものを抱えている女性の物語です。

白いシャツと「大丈夫」に重なる、二人の本音

『深夜のコインランドリー』と『たたんだまま』をつなぐものは、「白いシャツ」だけではありません。
もう一つ、二人の間で静かに重なっている言葉があります。

それが、「大丈夫」です。

男性は歌います。

もう大丈夫だと 声に出せば

そして女性も、

「大丈夫」って言った声が 少しかすれた

と歌います。

二人とも、自分自身に「大丈夫」と言い聞かせています。
しかし、その言葉は二人を本当に救ってはいません。

男性の場合、「大丈夫」という言葉のほうが先に乾いていきます。
女性の場合、「大丈夫」と言おうとした言葉が、最後には喉の奥で止まります。

同じ言葉を使いながら、二人はそれぞれ違う形で本音を隠しています。
そして、その本音を代わりに語っているのが、白いシャツです。

男性のもとでは、乾燥機の中で揺れる白いシャツ。
女性のもとでは、紙袋の中で、たたまれたままの白いシャツ。

そして興味深いのは、男性も女性も、最後にはシャツをたたんでいることです。

男性は、

乾いたシャツを たたむ手だけが動く

女性は、

白いシャツは今も たたんだままで

男性にとって「たたむ」という行為は、まだ気持ちが追いつかないまま、とりあえずその夜を終えるための動作なのかもしれません。
女性にとっては、「返す」という決断に近づくための動作でありながら、何度たたんでも、その先へ進むことができない行為です。

同じ「たたむ」という行為。
同じ白いシャツ。
しかし、その意味は少し違います。

男性は、まだ何が起きたのかを受け止めきれていない。
女性は、自分が選んだことを受け止めようとしている。

二人は違う場所にいます。
けれど、どちらもまだ完全には前へ進めていません。

ここで初めて、2曲は単純な「男性側の悲しみ」と「女性側の決断」という対比ではなくなります。

二人とも、それぞれの場所で、同じように言葉にできないものを抱えている。

『たたんだまま』を聴いたあとに、もう一度『深夜のコインランドリー』を聴く。
すると、「少し離れよう」という言葉の向こう側にいた女性の姿が、少しだけ見えてくるかもしれません。
そして男性の「返せなかった『わかった』」という言葉も、最初に聴いたときとは違って聞こえてくるかもしれません。

一曲を知ることで、もう一曲の意味が変わる。
それが、この2曲をつなげたかった理由です。

Tucci Rainの世界・第3章──1つの出来事を、二人の人生として描く初めての試み

『深夜のコインランドリー』は、Tucci Rain通算19作目。
そして『たたんだまま』は、20作目のオリジナル楽曲です。

これまでにもTucci Rainでは、複数の楽曲を続編的につなげる試みをしてきました。
1作目『あの日の沈黙』と2作目『薄明のホーム』。
そして5作目『カーテンの隙間から』と6作目『灯りを消した夜』。

それぞれ、一人の主人公を中心に、その物語が続いていく形でした。

今回の19作目と20作目では、そこからさらに少し違う表現に挑戦しました。
それが、同じ1つの出来事を、二人の主人公の物語として描くことです。

『深夜のコインランドリー』では、男性のもとに「少し離れよう」という言葉が届きます。
彼は、その意味を受け止めきれないまま、午前2時のコインランドリーで白いシャツを乾かしています。
『たたんだまま』では、その言葉を口にした女性が、自分の部屋で彼の白いシャツを何度も畳み直しています。

彼は、「わかった」と返せなかった。
彼女は、「大丈夫」と言い切れなかった。
二人とも、言葉のところで止まっています。

だからこの物語には、はっきりとした結末がありません。

二人が別れたのか。
もう一度会うのか。
白いシャツは、本当に彼のもとへ返されるのか。

それは描いていません。

『深夜のコインランドリー』の最後で男性は言います。

明日はきっと まだわからない

そして『たたんだまま』の最後に残るのは、

まだ 少しだけ

という言葉です。
二人とも、まだ途中にいます。
物語は終わったのではなく、答えが出ないまま、その夜だけが静かに過ぎていく。

今回の2曲では、その「途中にいる時間」そのものを描きたかったのかもしれません。
これまでの続編的な楽曲では、一人の主人公の時間を追いかけてきました。しかし今回は、一つの出来事の中に、二人分の時間があります。

同じ夜を過ごしていても、二人がいる場所は違う。
見ているものも違う。
口にした言葉も違う。

それでも、白いシャツと「大丈夫」という言葉が、二人を静かにつないでいます。

『深夜のコインランドリー』と『たたんだまま』は、そんな新しい形で描いた、Tucci Rainの世界・第3章です。

まとめ

『深夜のコインランドリー』と『たたんだまま』は、ひとつの恋の終わり、あるいは終わるかもしれない関係を、男性と女性それぞれの視点から描いた2曲です。

一曲目を聴くと、一人の男性の孤独が見える。
二曲目を聴くと、「少し離れよう」と言った女性にも、言葉にできない思いがあったことが見えてくる。
そしてもう一度、一曲目に戻ると、最初とは少し違う景色が見えてくるかもしれません。

「明日はきっと、まだわからない」

そして、

「まだ、少しだけ」

物語には、まだ答えがありません。
だからこそ、この2曲はここで終わりながらも、聴く人の中でそれぞれの続きを想像できるのかもしれません。

これまでの続編的な作品とは異なる、ひとつの物語を二人の視点から描く初めての試み。

「少し離れよう」の向こう側には、もう一人の物語がありました。
白いシャツと「大丈夫」という言葉で静かにつながった、『深夜のコインランドリー』と『たたんだまま』。Tucci Rainの世界・第3章の始まりとしてふさわしい2曲になりました。

どうぞ心ゆくまでお楽しみください。

ツッチー

副業Webデザイナーです。

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